2019/02/28

55 テニスは90%がメンタル④ 支えるのは技術

 大坂選手が、ドバイ選手権の初戦(2回戦)で敗退した。
 3-6,3-6のストレート負けだった。ファーストセットを落とすともろいという、大坂選手の特徴が現れた試合だった。
 直前に、メンタル面でのサポートが大きかったサーシャ・バインコーチとの契約を解除したことにより、不安定になったという見方をする人もいるが、私は、その見方については多少疑問を感じている。

ナンバーワンの構成要素を知っていたバインコーチ


 バインコーチについては、試合中に大坂選手が落ち込んでいるところをはげましたり慰めたりしているところがたびたび映像で紹介されているので、メンタル面のサポートが中心であったかのような印象を持たれている。しかし、テニス選手のメンタルは励ましの言葉で左右されるようなものではないのではないか。
 むしろバインコーチは技術面の指導者として優れたサポートをしてきたのではないか、それが大坂選手のメンタルの向上につながったのではないか、と私は考えている。
 「メンタルの向上→技術の向上」ではなく、「技術の向上→メンタルの向上」ということだ。

 バイン氏は、グランドスラム大会で23勝もしているセリーナ・ウィリアムズ選手のフィッティング・パートナーを8年間務めた人だ。ナンバーワン・プレーヤーの技術を構成する要素を知り抜いているとも言える。
 コーチを引き受ける前の大坂選手について、こんなに力があるのになんで60~70位に低迷しているのか疑問だったと、バイン氏は語っている。コーチに就任してバイン氏は、ナンバーワンと比較して大坂選手には何が足りないかを分析したにちがいない。そして大坂選手には、豪速球サーブと強打があるが、それしかないと気づいたのではないか。

 大坂選手は、豪速球サーブを返されラリーに持ち込まれるともろい。無理な態勢から強打し、アウトしたりネットにかけたりする。そうするとやる気を失ってしまう。彼女には、テニスを構成するさまざまな要素が必要だ。特に、プレーをつなぐ技術と粘り強くプレーし続ける精神力。
 そのためには、コートの左右そして前後、端から端まで走り切るフットワーク、そしてどこへ打たれても返す、それも最も相手が嫌がる位置に返す技術、相手のサーブを読みそれに対応してリターンする技術など、そうした一つ一つの要素を積み上げていく練習が必要、とバイン氏は考えたのではなかったか。

 少し前TV番組で紹介された大坂選手の練習風景からは、その一端が伺えた。
 大坂選手もインタビューで、単純で厳しい練習を積んできたことを語っている。

厳しい練習に耐えることでメンタルが向上


 スポーツ選手のメンタルは、練習によって支えられている。さまざまなサーブを返す練習をしてきた、どんなところに落とされても走って返す練習をしてきた、そして相手が取れないところへ返す練習もしてきた、そして自分はその過酷な練習に耐えてきた。そうした練習の積み上げから得た自分の能力への確信が、選手のメンタルを支えるのである。
 バイン氏の指導を受けたことによって、技術が高まり巾が広がる。結果としてメンタルも安定する。驚異的なスピードでランキングが上がっていったのは、そういうことではなかったか。

 バイン氏はまた、選手の打球の特徴をつかみ、それを再現する能力に定評があったという。それがセリーナ選手が彼をフィッティング・パートナーとしていた理由でもあるようだ。つまり、試合前に相手選手の打球、試合の展開のしかたをシミュレーションしてくれるということだろう。相手の攻略のしかたを研究する場を作ってくれるのだ。
 孫子の兵法に「相手を知り、己を知る。百戦危うからず」とあるが、テニスも同じこと。トーナメントで出会う強敵のプレーに対応するためには、バイン氏との練習は大きな意味があったと思われる。

練習し続けることこそが重要


 厳しい練習の積み上げでつくりあげてきた脳―神経系のネットワーク、これは一度できればそのまま保てる、といったものではない。「1日休めば自分にわかり、2日休めば周囲にわかり、3日休めべ観客にわかる」というのは、バレエダンサーが自分への戒めとして使う言葉であるが、テニスプレーヤーでもそれは同じである。自分のパフォーマンスを保つには、練習し続けなくてはならないのである。
 トップになった大坂選手には、多くの選手がそのプレーを研究し挑んでくる。それを退けるには、今まで以上に練習が必要になるだろう。ところが、ドバイ選手権では、力まかせに強打してアウトしたりネットしたりといった、昔の悪い癖が出ていたし、相手の研究もできていない様子が見てとれた。全豪オープン後、バイン氏との契約解除もあり、十分な練習ができていなかったことは明らかだった。

 しかし、大坂選手は一度トップに立った。
 トップに立つには、どれほどの力が必要か、そのためにはどれほどの練習が必要かということを学んだはずである。
 技術をしっかりと分析し、練習をきちんと積み上げていくことの重要性を知ったはずである。
 その路線に乗って、その力をさらに伸ばしていくように指導してくれる、相性の良いコーチ(*)をみつけるとよい。
 しっかり練習を積み上げればメンタルも安定し、大坂選手は再び良いパフォーマンスを見せてくれるにちがいない、私はそう思っている。

 *バイン氏とは、性格が合わなかったのではないかというのが、私の見解。



 





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