力学の話ではない。やるべきと考えたことを世の中の人に伝え、大きな動きとするための活動の仕方のことである。紹介するのは、反原発運動を展開している弁護士河合弘之氏の「運動の法則」。
河合氏は今、自ら監督した反原発の映画「日本と原発」(2014年)、2015年秋に完成した2作目「日本と原発―4年後」を引っさげて日本国中を講演して回っている。弁護士の河合氏がなぜ映画を作ったのか。それは、名前を公表して“反原発”の映画を作ってくれる人がいなかったからだ。依頼した監督、カメラマンに皆断られた。政治的な圧力がかかり仕事が来なくなってしまうというのだ。仕方がないので河合氏自身が監督することになったのだ。実際には、映画製作には多くの人が関わっている。カメラマンも脚本家も編集者もいる。映画のクレジットタイトルには大勢のスタッフ名が連なるが、監督の河合氏、構成・監修の海渡雄一氏(反原発で河合氏と共に闘う弁護士)、製作協力の木村結氏(東電株主代表訴訟事務局長)の3人以外はみな仮名であるという。
「日本と原発」映写会、映画の後には漫談のような講演をする。河合氏はそこで「運動の法則」を説く。
第1の法則:「明るく楽しくやる」
「こうした運動をやる人は一生懸命なのだが、概して悲壮感がある。原発反対をテーマとした映画はいくつもあるが、みな暗い。見ていると気が滅入ってしまう。これではダメだ、続かない」と河合氏は言う。確かに、人間の脳は「快」に向かって行動する。やっているそのことが、面白く楽しくならなければ、なかなか活動は続かない。しかしどうしたら、深刻で難しく大変なテーマについて、明るく楽しく運動できるのか。
心情だけで動くのではなく、科学的なアプローチをすること。問題の原因がどこにあるのか。どうしたら状況を変えられるのか。本気で勉強し調べて明らかにしていくこと。それが河合氏の答えだ。本気で勉強し調べて行くと、問題の本質や背景がだんだんわかってくる。何をめざし、どう行動していくべきか、だんだん先が見えていくようになる。そうすると希望が生まれ、明るく取り組めると河合氏は言う。
原発訴訟で闘う河合さんは、運動の方向を「裁判官を説得すること」と見定めた。かつての原発訴訟では原告の訴えはことごとく退けられた。しかし福島の事故で、裁判官たちも原発の恐ろしさを思い知ったはず、国の論理のみで原告の訴えを退けるという姿勢はもう許されない。原発の本当の怖さと、行政や企業がそれにきちんと対応してない事をしっかりと伝えるための映画をつくり、そのことをわかりやすく伝える。河合氏は、原発が日本に導入され全国展開されていった経緯や、原発の技術的な問題、そして3.11福島の事故について詳しく調べあげた。問題はどこにあるのか、これからどう進むべきか、映画の中でその方向が見えてくるように表現することを心がけたという。
現在、原発訴訟が各地で展開されているが、今では裁判所が「日本と原発」の映画を資料として見てくれるようになったという。一歩も二歩も前進していると河合氏は力強く語る。
第3の法則:「本気で取り組んでいると、誰かが助けてくれる」
情報をくれたり手伝ってくれる人が出てくるというのである。実際に映画作りもそうして実現できた。
12月24日福井地裁は、高浜原発差し止め請求裁判で、4月に出された仮処分を取消し再稼働を認めた。1歩前進2歩後退の状況だ。弁護団長の河合さんは、「このような結果に一喜一憂することなく闘い続ける」という声明を出し、翌25日に名古屋高金沢支部に取消抗告
を申し立てた。
*この稿は、2016年1月、JADECニュース96号(能力開発工学センター機関紙)に掲載した
ものである。