わずか1分40秒のトイレブレイクで立て直した
第2セット終了後、大坂選手はトイレブレイクをとり、タオルを頭からかぶり、コートを出て行った。連日40℃超えの中で試合が行われていた全豪オープン、大量の汗をかくので生理現象は起きない。このトイレブレイクは感情のコントロールのためだろうと解説者は語る。
最大5分間が許されているというトイレブレイク。しかし大坂選手は1分40秒で戻ってきた。その顔は、第2セットまでに見せていた顔とは別人のような無表情な顔だった。
最終セット、大坂選手はポイントをとっても表情を変えない。プレーぶりは淡々としていた。
3ゲーム目、相手のエラーでやってきたチャンスをものにして、大坂選手が相手のサービスゲームをブレイク。その後は互いにサービスゲームをキープしあって5-4としたところで、次は大坂選手のサービスゲーム。
このゲームを取れば優勝・・・ 見ているものでさえ緊張する。
サーブが決まり、ショットも決まり、3本先にとって再びマッチポイントを迎えた。
3-0、第2セットで迎えたマッチポイントと同じスコア。第2セットはここから巻き返されたのだ。
大坂選手のショットがアウトし1本返される。いやな予感・・・
しかし次の場面、大坂選手の強烈なサーブをクビトバ選手が返し切れず、ボールは大きくアウト。勝利は大坂選手のものになった。 試合時間2時間27分。
大坂選手はガッツポーズはせず、サーブをしたその位置で、ラケットを杖にしてしゃがみこみ、しばらくうつむいていた。気持ちを静めているようだった。
5歳になった大坂選手
試合後に大坂選手は、2セット目のマッチポイントをものにできなかった理由について、「勝つ前に勝ってしまったと思ってしまった」と語っている。どう気持ちを切り替えたのかと聞かれて、つぎのように答えた。
「私は世界で一番強い人と闘っているのだと考えました。」
1本1本を積み上げなければ勝てないと思い、一喜一憂せず、目の前の1本に集中することにしたという。その気持ちが、感情を見せない顔は、その強い意志が作り出したものだった。
再びつかんだマッチポイントについては、「同じ間違いをしてはならないと思い、自分の感情を抑えました」。
大坂選手は、自身の成長について「一番の改善点はメンタル、成長してきた部分だと思う」と語った。
そしてメンタルは何歳になったかと聞かれて、「5歳になった」。
大坂選手、誕生日おめでとう!
メンタル⇔技術・フィジカル
テニスはメンタルなスポーツである。試合を見ていると、つくづくそう思う。
しかし、テニスの勝敗が90%メンタルで決まるわけではない。
「あきらめなければ願いはかなう」なんてことはないのだ。そのことは私自身高校時代テニスをやっていたからよくわかる。(これは何もテニスに限らず、どんなことについても言えることだが)
いくら集中していても、球を見極める力ができていなければ、サーブのコースを読み取ることもできなければ、それに反応して返球することもできない。脚力が鍛えられていなければ、相手の打球の速さやコースについていけない。返すことに精いっぱいで、がら空きのスペースをつくらされていることにも気がつかない。
大坂選手がグランドスラム2連勝を果たしたのは、メンタルの成長が大きかったかもしれないが、、決してそれだけではない。体重をコントロールし、フィジカルを鍛え、どんな球も返球できるように訓練をした。
どのような練習をしているのかの質問に、「とにかく走りました。単純なトレーニングでした。とても大変だったけど、がんばればこのトロフィーが手に入るのではないか、と自分に言い聞かせました」と答えていた。
相手のどんなプレーにも反応し、対応できるだけの力をつける。その力があっての勝利である。
「90%はメンタル」というのは、その力を出し切れるかどうか、つまり脳―神経系の反応が最大限働くかどうかが、メンタルにかかっているということだ。
このメンタルは、脳―神経系の反応力、つまりフィジカルと技術が向上することによって強くなる。「これだけのトレーニングをして、これだけ反応できるようになっているのだから、落ち着いていつもどおりやればできるはず」と、それを信じて行動できるようになる。
フィジカル・技術の向上があってメンタルが向上し、メンタルが向上してフィジカル・技術が向上する。メンタルとフィジカル・技術は、そのように関係しあって、互いに成長していくということだ。
コントロールすることで、コントールできるようになる
そして、もう一つ。
メンタルは、コントロールしようと強く思うことで、コントロールできるということ。
強くそう思い、気持ちを静めるための行動をすること。深呼吸、間を取る、笑顔をつくるetc.etc. そうすることでコントロールできるようになる。コントロールする行動を積み重ねることで、コントロールできるようになる。そのようにして脳は、自身の脳―神経系のネットワークをコントロールする、その仕方を学習していく。
そのことを目の当たりにした大坂選手の試合だった。
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