2019/02/08

53 テニスは90%がメンタル② 大坂選手2019全豪の闘い

 さて、大坂選手の話である。
 大坂選手は恵まれた身体から繰り出す男子顔負けの剛球サーブ(200㎞/h、錦織選手より速い)を持ち、フォアハンドからもバックハンドからも強いショットを打つ。トップ30位以内は確実といわれながら、なかなか勝てずランキングが上がっていかなかった。全米オープン前は72位。原因はメンタルにあると言われていた。

 大坂選手は第1セットを先取すると気持ちが乗り勢いがつくき、勝率94%。現在61連勝中で、約2年間負けなし。しかし、第1セットをとられた場合の勝率はなんと20%しかない。64試合中、43試合がストレート負け。逆転勝ちしたのは13回しかない。最初のセットをとられると、諦めが早く、投げやりな試合になってしまうのである。

 全豪の前哨戦ブリスベン国際準決勝はまさにその典型。ノーシードで上がってきたツレンコ選手に6-2、6-4のストレートで敗北。第1セットをとられて「ふてくされてしまった」と大坂選手は語っている。
 そのわずか12日後の1月17日、大坂選手の全豪オープンでの試合が始まったのである。

2019全豪オープン3,4回戦


 しかし、今年の全豪オープンでは、大坂選手は3回戦4回戦ともに第1セットをとられてから逆転。これまでにない粘りを見せた。

 3回戦の相手はダブルスの名手、台湾の謝淑薇選手(27位)。彼女の多彩なショットに苦しみ第1セットを失う。さらに2セット目はゲームカウント1-4まで追い込まれた。見ていた誰もが、もうだめかと思ったことだろう。
 しかしその後、謝選手のショットに対して返球を工夫しながら粘り、6-4と巻き返し、このセットを取り返してタイとした。そして最終セット、持ち前の力を発揮して6-1。合計1時間57分で勝利をつかんだ。

 4回戦はラトビアのセバストワ選手(12位)。強打を打ち込んでも、球の速度を利用され逆にカウンターを食らった。緩急をつけられて走らせられた。
 「誰ともちがうプレー。本当にやりにくかった。」 第1セットをとられ、第2セットも2-4と追い込まれ、次は相手のサービスゲーム。3本先行され、あと1本とられればこのゲームを失い2-5となってしまう。これまでなら焦るところだ
 しかし、このとき大坂選手は「まだ、1度サービスゲームを落としただけ」と自分に言い聞かせたという。「これ以上ゲームは与えちゃいけない」と、1本ずつ着実に挽回してピンチを乗り切った。
 すると、もう一息で勝つところだった相手が逆にくずれ、試合の流れが変わった。それから一気に大坂選手が7ゲームを連取、4回戦を突破した。

 長かった3セットを乗り切ったとき、大坂選手は天を仰ぎ、それからサポートチームの方を見て微笑んだ。
 「以前なら、もうあきらめた試合だった」「自分の弱さを乗り越えたことが一番うれしかった」と、大坂選手は試合後このときの心境について語っている。「前哨戦で学んで、私は変わったんだというのを見せたかった。」

 大坂選手は、自分の欠点がメンタルにあることを自覚、全豪前、自らを「3歳児のメンタル」と評価していた。そしてそれを克服しようとしていたのである。3回戦終了後のインタビューで、「少し成長して4歳になった。私の誕生日、おめでとう」とユーモラスに語った。そしてこの4回戦である。その成長は本物であることを証明した。

 

決勝、相手の最大の武器を攻略し第1セット先取


 準々決勝はストレート勝ち、準決勝は第1セット先取のフルセット勝ち、そして決勝へ。
 決勝の相手はチェコのクビトバ選手(7位)。大坂選手に劣らぬ剛球サーブの持ち主で、左利き
 左利きの選手の打球は、右利きとは反対の方向に切れていくので、打ちにくいのだという。左利きの選手は少なく、大坂選手は左利き選手とは一度も闘ったことがないというので、心配しながら見ていた。

 第1セットは、互いにサーブがよく決まって6ゲームずつ取り、タイブレークに突入した。
 タイブレークでは。サーブを1本ずつ交代で打つ。
 大坂選手は、それまでアドバンテージ・サイドにおけるクビドバ選手のスライスサーブが返せていなかった。
 このサーブは、クビトバ選手の最大の武器となっているもので、打球が左側、コートの外へ大きくそれていくのでなかなか返すことができず、返せても、コースの外へ振られてしまうので、コート内ががら空きになり、そこにクビトバ選手が難なく打ち込むことができるのである。
  しかし、タイブレークに入ってからのクビトバの1本目のこのサーブ、これを大坂選手はバックハンドで、ラインぎりぎりにリターンエースを決めたのである。

 最大の武器であったサーブを返され、しかもそれが相手のエース(ノータッチで決めること)となったのだ。クビトバ選手にはショックだったに違いない。その後のクビトバ選手の打球には勢いがなくなったように見えた。そして、大坂選手は7-2でこのゲームを取り、第1セットを先取した。


第2セット、チャンスが一転して


 続く第2セット、尾坂選手は出だしにつまづいた感はあったが、その後は順調にゲームを取り5-3とし、サービスゲームで迎えた9ゲーム目。3ポイント先取で迎えたマッチポイント。もうあと1ポイントのところだったが、開き直ったようなクビトバのプレーが次々と決まり、何とこのゲームを失ってしまう。
 それからは、大坂選手にとっては悪夢のような4ゲーム。フォアハンド、バックハンドのミスが重なる一方で、クビトバ選手はよいショットを決めていく。最後は、大坂選手がサーブを失敗(ダブルフォールト)してこのセットを失ったのである。まs
 チャンスをものにできなかった大坂選手がプレーを乱し、集中して相手のマッチポイントを退けたクビトバ選手が勢いをつける。ここにも、テニスのメンタル性を見ることができた。

 大坂選手がこのセットを失ったのは、確かにメンタルの乱れだったと思われる。
 しかし、それでも明らかに以前とは違っていた。前だったら、ラケットをたたきつけていただろう。
 ところが、この試合では(この前の試合でもそうだったが)、たたきつけようとしたラケットを下に置き、下を向いてこらえる場面、しゃがみこんでがまんをする場面、大きく深呼吸をする場面、コートを背にしてしばらく間を取る場面、プレーが思い通りにいかなっかたにもかかわらず笑顔を浮かべるなど、大坂選手が感情をコントロールしている場面、しようとしている場面が随所に見られた。
 今までの大坂選手とは違う。大坂選手は自分を変えようとしている。
 クビドバ選手と闘っているのだが、それ以上に自分自身と闘っている。

(つづく)
 









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