2020/01/15

64 童話「カボチャのつる」―これは道徳なのか

もう、少し季節外れの話になってしまったが、書いておきたい。
昨年の9月のはじめの頃のことである。

買い物に出る道の途中にかなり大きな畑がある。
畑と歩道とは、農家が植えたドウダンの垣根で仕切られている。なかなか良い風景だ。
そのドウダンの垣根を、別の植物の葉っぱとツルがおおっている部分があった。
近づいてみると、それはカボチャであった。

畑で栽培しているカボチャが、ツルをのばしてドウダンをおおい、歩道まではみ出さんばかり。
畑の中には、すでに食べごろの大きさのカボチャがいくつもなっている。
それでもなおツルをのばして成長しつづけようとしている。
カボチャの生命力とはすごいものだ。
カボチャは栄養価が高く、食べ方もいろいろあり、値段も安くありがたい野菜だ。
値段が安いのは、栽培のしやすさと、この生命力のおかげなのだなあと、私は感動さえ覚えた。



ところが、この「カボチャ」の生命力が、教育の世界で問題になっているという。
どういうことか???

昨年から教科化された道徳、その小学校1年生の教科書に「カボチャのつる」という童話が載っている。(すべての教科書会社の道徳の教科書に載っているという。)
わがままなカボチャが、ミツバチ、子犬、スイカの忠告を聞かずに、畑の決められた所からはみ出して道路にまでツルをのばし、道路を通ったトラックにツルを切られて泣くという話である。
これが、道徳の学習指導要領の「節度、節制」という項目に位置づけられているのである。

要するに、周りのものの言うことをよく聞く、ルールを守って生活することが大事であるということを教えるべしということだ。
これに対して教育者や保護者から批判の声が上がっているという。
多くは、「子どもの個性を認めない」「一つの結論を押しつけようとしている」というもの。
「勝手に行動していると痛い目にあうぞ」というおどしだという意見もある。
それぞれもっともな意見である。

しかし、私が最も問題にしたいと思うのは、なぜ主人公が「カボチャ」なのかということである。
そしてわがままな行動というのが、なぜ「ツルをのばす」ことなのかということである。

上にも書いたが、カボチャは生育が早く、旺盛に育つ野菜なのである。
ツルをどんどんのばすのは、カボチャの本来の性質なのである。
そして、のばしたツルのそこここたくさんの実をつけてくれる。
子どもたちには、むしろカボチャに感謝や愛着の気持ちを持ってほしいと思うくらいで、ツルののばし方に文句をつけるなどもってのほかだ。

栽培方法がやさしく育ちやすいので初心者にお奨めと、ネットの野菜栽培講座には書いてある。
カボチャの性質を心得て、ツルがのびる範囲を予測して、畑のどこにどう種をまくか、どう肥料をやるかは、人間が考えるのである。
ツルの伸び具合や、実のつけ方は日照や雨の具合にもよる。
それを見計らって世話をするのは、人間の責任なのである。

道徳というのは、社会生活の中での行動のあり方の問題だ。
行動のしかたにつながらなければ何の意味もない。
「勝手な行動をしない」と言っても、何が勝手で、何が勝手でないのか、判断はそう簡単なことではない。自由な行動、主体的な行動とどう区別するのか。、自分が遭遇する場面において具体的な行動として表現することは大人でも難しいことだ。

この「カボチャのつる」における行動者は、人間でないカボチャである。
そもそも野菜であるカボチャのつるののばし方が、行動のモデルとして適切なのか。
この伝でいくと、朝顔の花が咲かなかったのは、世話をする自分が水やりをしなかったせいでも、陽のあたらないところに置いておいたせいでもなく、朝顔が怠けて寝坊をしたからだなんて話にもなりかねない。

抽象的なお話の世界のことを、自分の身の回りの行動に置き換えて考えるということはなかなかむずかしいし、ましてや具体的な行動として表現することは簡単ではない。
高齢者や身体の不自由な人に座席をゆずるというような当たり前のようなことでさえ、多くの人がなかなか行動できないでいるくらいだ。
子どもたちには、具体的な行動のしかたとして表現していかれるように、少しずつ具体的な行動の場で行動させていくことが必要である。そうした積み重ねで行動習慣として身について初めて道徳として成立するのである。

子どもたちの行動の場は、教室であり、校庭であり、通学路であり、それぞれの家庭である。
また、家の近所であり、外出した先である。
道徳的行動力は、そうしたさまざまな場における具体的な行動を通じて育てていくものである。
教室の中で、教科書を読んで、話合うだけで、道徳的態度・道徳的行動力を育てようと考えているのなら、それは人間の行動形成についての勉強が不足していると言わざるを得ない。









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