脳の働きに目をつけて人間の行動をみるようになると、それまでの概念を改めなければならない思うことがしばしば起こる。従来は「○○なのに」と考えてきたことが、そうではなくて、実は「○○だから」だったのだと、まったく逆にとらえなくてはならなかったことに気がつくことがある。
たとえば、子どもが暗がりを怖がって、一人では行かれないというようなことがある。そんなとき、周りのものは、つぎのような対応をすることが多い。
Mちゃん、お二階が怖いなんておかしいよ。もう一年生でしょ。
Kちゃんはまだ3歳なのに、一人で行かれるよ。
Mちゃんはお兄ちゃんなんだから、一人で行かなくちゃだめじゃないの。
ところがこれは大間違い。実はKちゃんは「まだ3歳だから」暗いところに行かれるのである。怖いもののイメージができていないからである。「怖い」という感情が育っていないのである。ところが小学校一年生のMちゃんには、大人の話を聞いたり、本を読んだり、TV番組を見たりする中で、脳の中に怖いもののイメージが出来上がっている。その脳が働いて、電気のついていない薄暗い2階の部屋と、怖いものとを結びつけるのである。
つまり1年生のMちゃんは、「怖い」という感情をつくるために十分な経験をしたということである。怖がるということは、その子がそれだけ成長したことを示すものなのである。叱るより、この子の脳にはいろいろな情報が入ってきたな、ととらえるべきなのである。第一、叱っても脳の中のイメージが修正されるわけではないから、無意味である。怖がらないようにさせたいのなら、怖がる必要がないという新しいイメージを脳の中につくるために、どういう経験をさせたらよいかを考えた方がよいということである。
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