2017/01/19

39 “指示待ち”から脱出させるには


★私に振ってくれれば、答えたのに・・・


 ある会社の営業支援部。部長、課長以外は全員が女子。会議で、部長から販売店への戦略に対するアイディアを求められた8人。意見が出ない様子を見て、先輩に遠慮していた新入女子社員が思い切って、販促活動のときの経験から考えたことを提案した。すると部長が「面白いじゃないか」と、具体的なやり方などを彼女に質問。前にそのことを彼女と話し合っていた別の社員からも補足意見が出て、どんどんその話が進み実施が決まっていった。


会議終了後、先輩社員の一人が「あの程度のことなら、私だって考えていた。振ってくれなかったから話せなかった」と言ってくやしがった。
 新入女子社員はそれを聞いて、「当ててくれるまで待っているなんて、学校じゃあるまいし、そんな姿勢で仕事をしてるなんてとんでもないこと」と思ったという。


「営業支援という仕事には、営業マンの仕事・顧客のニーズについて積極的に自分から情報をとり、こういうことがあったらお客さんには便利ではないか、こういうパンフレットがあったら品物について説明しやすいのではないか、と自分なりに考えて働きかけてみる姿勢が大事だと思う」と彼女は言う。「効果がなければ修正する、別の工夫をするようにしている。言われなくても積極的にお客さんに新しい商品情報を出したり、資料を作って行ったりしている。そうしたら、近頃は営業マンが声をかけてくれたり、お客さんから注文が入るようになった」と述懐した。


 先輩を含む他のメンバーが自分より劣っているわけではない。むしろいいセンスしているなあと思うこともたくさんあると彼女は言う。問題は、先輩たちが基本的に「言われたことをやる」「指示を待っている」という姿勢にあると彼女は思っている。
「新入社員の分際であまり目立っても、あとでやりにくくなると思うので、先輩に相談する形で情報を流し、先輩がアイディアを出したようにもって行くこともある」「みんなで競い合っていいアイディアをだして、お客さんにも営業マンにも喜んでもらえるといいなあと思っている。それが売り上げにつながると思う」と彼女は笑う。



★講義式の授業が“指示待ち”を育てる


 この事例で考えさせられるのは、先輩たちの「指示を待っている姿勢」。
 これは、一体どこで育てられたか。
 人間は、本性として積極的に情報を取る存在として生まれてくる。学習型の脳を持つ人間は、外界から新しく情報をとり行動のしかたを学ばなければ、生きていかれないからだ。幼い子どもの「あれ、なあに?」「どうして?」「ワタシがやる」「ボクもやりたい」はその表われだと言ってもよい。

そうした積極的な行動姿勢を「指示待ち姿勢」に変えてしまうのに、大きな力を持っているのが学校教育だ。現在の学校教育は、基本的に講義形式である。教師の問に対して答えるという形で学習が進められていく。小学校から十数年(長い人は大学までの16年間)の授業の多分7~8割は、教師にコントロールされその指示を待つ行動をとり続けることになる。

学習した結果は、教師によりどの程度習得したかをテストという形で確認され、採点され順序づけられる。失敗を修正する過程や良い結果を生み出すための努力は、評価の対象にならない。結果がすべてなのである。
そうした経験の積み重ねから、間違ってはいけない、正しい答、良いアイディアを出さなければならない、失敗はしたくない、という消極的な考え方が育ってしまうのである。
 

★指示待ち人間を、行動の場に引き出す


 では、そうした消極的な指示待ち人間に育ってしまった彼女たちを採用した会社はどうしたらよいのか。
 行動すべきは、上司たちである。
決してやってはいけないのは「やる気があるのか!」などと怒ること。それでは彼女たちは委縮し、ますます引っ込んでしまう。
 
まず、間違ってはいけないという、彼女たちのハードルを低くしてやる必要がある。一人ずつ聞いてもアイディアが出てこないなら、2人一組にして考えさせ、どちらでもいいからチームのアイディアとして答えさせる。出たアイディアはたとえダメであっても、すぐに否定することはしない。そのアイディアがダメなことを、自分たちで発見できるようにする。
 アイディアを実施するための条件を提示し、それに適合しているかを検討させるのだ。ここで大事なのは、いかに自分のアイディアに対して客観的になれるか、ということを社員に示すこと。自分のアイディアに固執せず、よりよいアイディアを作っていくこと、よりよい方向に修正できることが大切と言うことを、しっかり伝える必要がある。
 
 時には、やらせてみて悟らせる。何か事を行うときに、失敗は当たり前。大事なのはその失敗を修正すること、そしていかに成功までこぎつけるか、その過程を経験することである。ベテランは、新人に「お前にはまだ無理だ」とやらせないことが多いが、失敗させないようにするのではなく、自分で修正できるような、小さなチャレンジをさせていくようにする必要がある。失敗を克服するとそれは自信につながり、チャレンジすることにも意欲的になっていく。
 部下にチャレンジさせて、その失敗を修正させる。修正しきれないときは自分がカバーするというぐらいの気概のある上司のもとに、能力ある部下が育つ。

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